第42章 琥牙くん、上京
「すみません」
さっきも下りの電車内で、男に触られてる女性を助けたけど。
男の腕をつかむと悲鳴を上げて逃げられて、逆に自分が触ったみたいに誤解された。
「あっ……」
でも、学生みたいなこの外見のお陰で、大事にならなくって、なによりだったな。
「ごめんなさい」
…………それで、さっきから自分の少し目の前を歩いてる、壁や床や人と戦ってる女性は何なんだろう?
鍛錬、かな?
まさか同種────────……
そんな匂いはしない。
女性にしては背が高く、細い足首に高めの踵の靴。
腰の位置も高いし、草食動物みたいな外見だと思った。
ああ、でも。
三メートル先の階段のてっぺんの段差。
あれは危ない。 まさかあれに躓きはしないのかな。
それはない。 じゃなきゃ、今まで生きてるのが不思議────────……
「………きゃっ」
まさかの予感が当たったらしい。
それで咄嗟に体が動いたけど、まともに母親以外の人の女性に触った。
見た目より軽くて恐ろしく柔らかくて………なんだ、美味しそう?
ふんわりといい匂い。
その人が振り返って、見開かれた、一見切れ長にみえて大きな目とか、半開きに驚いた艶々の唇とか。
目の前の生き物に自分の器官が吸い込まれたみたいで、ぼうっと眺めてると、ありがとう? 女性特有の高過ぎることもない、声でその人が言った。