第39章 デートでお給料二週間分
「そろそろ夕陽が綺麗な頃かな。 海見てからここ出ようか」
フードコートから外に出るデッキに降り、冷たい潮風に身を震わせると気遣わしげに彼が肩を抱いてくる。
「獣体のがあっためてあげられるんだけど」
「ならないで」
盲導犬のフリすればいけるのかもだけど。
それでも犬にしてはデカすぎるのよ。
ああ、でも今日は晴れてよかったな。
まだ夕方の四時だというのに早々にオレンジ色に変わろうとする空を仰ぎ、冬の晴れ間の、静かな波の音に耳を澄ませた。
「こっからアシカが見える。 あれも美味しそうだね?」
金網越しに階下のプールを見下ろし、琥牙がかすかに喉を鳴らす。
基本的に、川や海のものは彼にとっては食糧なのだろうか。
「というか、なんか今日はおれが楽しい気がする。 真弥のお祝いなのに」
「え? 私も凄く楽しいよ。 水族館大好きだし」
琥牙のリアクションも面白いし。
あとこの後、ご飯ご馳走してくれるんでしょ? そう言うと彼が頷いた。
「それもだけど。 真弥結局欲しいもの言ってくれなかったから、勝手に選んだよ」
はい、プレゼント。
そう言ってカーディガンのポケットをごそごそして、その場でブラウンの包みの、四角い箱を手渡してきた。
「女の人へのプレゼントって、アクセサリーとかが良いんでしょ?」
私がそれを開けるのを待っている様子なので、包装をぺりぺりとめくると真っ赤なビロードの、やたら豪奢なボックスが現れる。
それをぱかりと開いたら、台座にでんと鎮座している指輪──────…なのだけど。
「駄目? そういうの。 一応こないだ働いたお金で買ったんだよ」
大きなダイヤモンドの周りに、更にプラチナのリングに沿っていくつかの石がはめ込まれた。
ハイブランドのこれってどうみても。