第39章 デートでお給料二週間分
……おそらく私が出しゃばらない方がいい。
あの日の、卓さんに対して容赦のない彼を見てから、そう思った。
あそこで琥牙が来てくれていなかったら、私や浩二が今ごろどうなっていたか。
それが頭では分かっていても、動機がなんであれ、結局は圧倒的な暴力で押さえ付ける─────────……そのやり方が正しいと私には明言できない。
結局、彼にそうさせたのは私だ。
『いい加減に分かりなよ』
そんな琥牙が言ったとおり、あの時に私は、嫌というほど自分の無力さと軽率さを思い知ったのだ。
そしてあれから一週間が経った。
卓さんは結局、二ノ宮くんの判断によって病院に運ばれたらしい。 事故という体を装って。
正直、最初は彼のこと兄貴みたいに思ってたから。 複雑だったんだ。 そう言って二ノ宮くんが話し始めた。
『だから出来れば、内々で解決したかった……だけど、無理だったね』
会社のお昼休みに休憩室で。 いつもの彼よりも抑えた様子だった。
話したら分かってくれるかもとか、そんな希望もあったんだよ。 苦笑する彼に、これで良かったのかと訊いた。
『死なれたらあと味悪いもんね。 人間は平気らしんだけど、もうオレにも怯えちゃって、あれなら犬にも怖がるんじゃない? ま、当面まともに話せる状態じゃ無いから、病院暮らしになるんだろな。 でも、彼の面倒は見るつもりだよ』
そう言って、週中に会社に辞表を出した。
『完全に自由になったら、これからは全部自分で選べるんだって思ったら、セクハラとかも馬鹿馬鹿しくって。 家とか色々、身辺整理しなきゃだし』
彼ったら、ヤケにすっきりした顔しちゃって。
里の若い狼たちもめっきり大人しくなったみたいで、諸々と眼前の問題は解決されたんだろうけど。
琥牙の傍に居たいという気持ちは変わらない。
けれども私は、出来るならば、彼を悲しみや怒りから遠ざける存在でありたいと思う。
せめて、それをも彼と分かち合えたら、きっと彼の苦しみを私も負えるようになる。
───────いつの日か、私が朱璃様のように強くなれる日が来るまで。
とはいえ………琥牙はいつ里へ帰るんだろう?
疑問に思いながら、そこはなんとなくうやむやのまま今日にいたる。