第39章 デートでお給料二週間分
駅から少しだけ歩いて施設に入り、ぽかんと口を開けて入口の巨大水槽を見詰めている彼を見て、思わずにんまりとする。
こんなたくさんの魚なんて見たことないはずよね。
しかもさっき、海が好きって言ってたし。
「テレビで見たことあったけど、凄いね。 今通った大きいの、あれサメっていうの? うわまた来た。 なにあのヒラヒラしたやつ?」
キャッキャと騒いでる子供に混ざってサメを追いかけている。
普段はどちらかというと物静かな彼がこうなるのは、傍で見てる私からするとぶっちゃけかなり面白い。
笑い過ぎたお腹を抱えつつ向かった渓流ゾーンでは、ニジマス美味そう。一匹位なら採ってもいい? そう言ってウズウズし始める琥牙を慌てて引きずり、三メートルの高さはありそうな、カラフルに水中を舞うクラゲ水槽へ。
七色に変化するLEDにたゆたうクラゲは人気スポットで、薄暗い中にファミリーやカップルの姿も見えた。
「はー…綺麗だな。 空飛んでるみたいだ」
「でもクラゲって泳ぐ力は無いから、ほら。 あそこから水流を流して水の中を移動してるの」
「へえ、海は波があるから大丈夫なんだね。 って、こら真弥。 またはだけてるし」
後ろから体を覆うように抱きしめられて、ストールの代わり。 そんなことを言いながら一緒に水槽を眺める。
そんな風に屋外でくっつくのは抵抗があったけど。 まあ、薄暗いから良いか。 そう思ってぼうっと幻想的な景色に浸ってると、お腹で組まれていた手が上に伸びて、柔らかく胸を包んできた。
「えっ」
………布で隠れてるのを、いいことに。
驚いて、思わず挙動不審に周りを見渡し、しらっとしてる琥牙を横目で睨む。
「ちょっと……こんなとこで」