第7章 引越し蕎麦※よく見ると三人前
不平を漏口にしながらダイニングにとりあえず置いたローテーブルにお弁当を広げていく。
琥牙が困った様子でそれを囲み、雪牙くんも彼に並んで床に座った。 引っ越し当日という事で座布団や食器諸々足りないのはご愛敬だ。
「単におれは成長期なだけで、細いのがいい訳でもないし。 真弥スタイルいいと思うけどなあ。 な、 雪牙」
「し、知らねえよ、そんなの」
雪牙くんは余程お腹が空いていたらしい。
あらかじめそれぞれ少し料理を取り分けておいたお皿があっという間に空になる。 さすが成長期の男子。
「雪牙くん美味しい? おにぎり鮭とそぼろどっちがいい?」
「…………」
「お茶も飲んで。 はい!」
「グラスは大きい方がいい? 雪牙」
「うん」
「まだあるからいっぱい食べて」
「お代わりは?」
ほっぺたをぱんぱんにしてご飯を夢中で頬張りながらこくり、こくり、と頷く雪牙くんを見て琥牙と私はふふと笑い合った。
「真弥は料理上手なんだよ。 この唐揚げとか」
「…………うん」
「卵焼き甘いの作ったよ。 雪牙くん好きだって聞いてたから」
「…………………アリガト」
よっしゃ!!
思わずコッソリ隠れてガッツポーズを取る。 懐かない動物が心を許してくれる様になるのって達成感しかないわ。
引越し当日位店でなにか買えばいいのに、という琥牙に調理道具の移動を先に手伝ってもらい、朝の五時に起きてこっちに来て作った甲斐があった。
向かい側に座っていた琥牙がそんな私を見てクッと笑いを漏らす。