第7章 引越し蕎麦※よく見ると三人前
真新しい壁紙の匂いのする寝室に入ると、部屋の二面にある大きな窓からは緑の香りを纏った夏風がふわりと髪を梳く。
駅からは少し離れるが通常は分譲マンションとして売りに出している物件を借主から賃貸で住まわせてもらう事が出来たのだ。
「気持ちいいねえ」
そこは自然の多い地区で、鉄筋作りの広いバルコニーからは夏の陽に元気一杯に広げた枝葉が青々として目の前の高さまで伸びていた。
「だね」
これなら狼の出入りも安心だろう。
今回の引っ越しでは、この際にせっかくだからとベッドなど単身用の家具も大きなものに買い換えた。
そんなのは一人暮らしを始めた大学生の時以来で、社会人の今となっては新婚みたいなくすぐったい気分である。
「雪牙くん、お昼にしよう。 お弁当食べよ」
正午にも近くなり、朝から働きっぱなしの二人に声を掛けて回る。
「琥牙も」
「……ん。 あっつ」
冷房の効いてない部屋で荷解きをしていた彼はTシャツの前をぐいと上に引いて汗を拭いた。
汗で濡れた髪がなかなか色っぽくてどきりとする。
そして薄っらと割れた腹筋……
薄………
「ほっそ!」
「え?」
「琥牙ウエストほっそい! やだなんで私のジーンズ履けるのよ」
「なんでキレ気味なの……」
私と違いお尻の辺りがまだ余裕なのに更にむかつく。
「やだもうずるい。 毎日アイスだわコーラだわ食べてる癖に。 私なんか我慢してるのに」