第39章 デートでお給料二週間分
「ええと。 外に出て…A4番出口でしたっけ?」
軽く首を傾けた私と一緒になってお婆さんも考え込む。
「……聞かれてもねえ?」
「B2だよ」
いつの間に戻って来た琥牙が、私たちの傍に立ち、口元に拳を当てて笑いそうになりながら言ってきた。
「一旦これで降りて地下一階、右に曲がって突き当たりの出口だけど、案内もあるし降りたら分かるかと」
「ありがとう。 突き当たりね、ありがとう。助かりました」
ほっとしたように何度かお礼を口にしつつ、エレベーターに乗り込むお婆さんを見送り、ひらひらと手を振る私を琥牙がちらりと見る。
「他人に構ってたら身が持たないんじゃなかった?」
「ああいうのは誰も損しないからいいのよ」
「嘘の道教えても?」
「……ゴメンナサイ」
ぐう、琥牙のくせに生意気な。
わざとじゃないもん。 そう言う私に「ぷ……あとここ、A4とか無いから。 行こっか」などとダメ押しをして手を引いてくる。
毎日電車に乗ってるのは私なんですけどね。 そう心の中で愚痴りつつも、彼にとぼとぼとついて行った。
こんな風に誰かとデートするのなんていつぶりだろう。
電車の中で並んで座って改めて見回すと、それらしき男女連れがちらほらと見受けられる。
そんな感慨深い気分だったが、見慣れなくて珍しいのか、車窓から熱心に海を見ている琥牙を見て笑いが洩れた。
「琥牙のところは山だもんね。 海は好き?」
「うん。 一人の時に時々走りに来てたけど、見てると落ち着くよ。 おれは川でしか泳いだことないけど、塩辛いんだよね」
「それなら夏に泳ぎに来れば良かったね? 浩二から車借りてさ」
そう言うと琥牙がどことなく微妙な顔をした。