第39章 デートでお給料二週間分
「すごい迫力。 こわーい」
「カレシ超勿体無いよねー」
そんな嘲笑が聞こえ、じゃあアナタたち、都内の駅構内で抱っこされる恥辱を受けてみなさいよ。 そう心の中で文句を言ってみる。
「真弥よりそっちのが怖いと思うよ。 聞こえよがしにさ」
その直後に彼女らを追ってきた琥牙の声に驚いたみたいに、きゃあ。 とかいいながら大慌てで走り去って行った。
「訳わかんないね。 知らない人に声掛けるなら、ちゃんと礼儀正しくしなきゃね」
首を捻ってそう言う彼の意見は正しいんだけどね。
でもああいう人なんて、一杯いるし。
「分かるけど、他人にいちいち構ってたら身が持たないよ」
そうかな。 といまいち納得のいかない顔をする。
想像出来ないけど、もし琥牙が普通のサラリーマンとかになったら凄く大変そう。
その後改札口に差し掛かる手前で、琥牙がPASMOが切れてると気付いてチャージしに行ったので、少し離れた所で彼を待っていた。
と、元来た道に目をやると、先ほど通り過ぎたエレベーターの前で、おろおろした様子のお婆さんがいるのに気付いた。
どうかしましたか、と後ろから声を掛けるとほっとしたようにその女性が振り向いた。
「ああ、あの。 ちょっとお聞きしますが、池田病院ってここで良かったかね?」
どうやら道に迷っているらしい。
すぐ駅前にある総合病院ね。
それなら方向音痴の私でも分かる。
ここはぼちぼち大きな駅で、二種類の沿線が発着しているのだ。
「近くですよ。 でもここはJRだから、地下鉄の方に行かないと……」
地下街もあるし、慣れないと迷うのは仕方が無いと思う。
私は住んでるところだから慣れ…てる…はず、だけど……?