第37章 私たちの牙 後編
「真弥と過ごす私の老後の楽しみを奪うなとか、もう無茶苦茶で」
「っなに、ソレ」
いかにも彼女の言いそうなことだ。
老後って歳でもないのに。
思わずぷ、って吹き出してしまった私を見て、琥牙がほっとしたような顔をした。
「あと、もう少し真弥のこと信用してやれってさ」
「…………」
「そう受け取っちゃうよね。 真弥にはいつもありがとうって、本当はその方が大きいのに。 ごめんね、真弥が大事過ぎて」
彼の少し掠れがちな優しい声と表情に、ぽろっ、と私の目から一筋だけ涙がこぼれた。
そうだ。
一貫してなんで私が彼の言動で傷付いてたのかというと、結局はそこだったのだと気付いた。
私は彼にとって役に立たないのだと。
ただの負担に過ぎないのだと、そう思わされるのが堪らなく嫌だった。
いくら危険でも、私は琥牙とそれを分かち合いたかった。
そんな私の気持ちを知ってか、ごめん。 と琥牙が何度も繰り返す。
「それ顔、跡残んないように早く治療しなきゃ」
「え? いいよ、これ位」
特に痛みもないし。
麻痺してるだけかもしれないけど。
「そういうのって、あとから腫れてくんぜ」
「琥牙って真弥の前だと犬っころみたいなのにな。 はあ、でも……俺にも一発殴らして欲しかったねソイツ」
雪牙くんと浩二がそう言って、琥牙が振り返り、視線の先の狼たちがその瞬間真っ直ぐに、分かりやすく硬直した。
「伯斗。 あと頼んでいい?」
「お任せを」
「あ、いひゃっ…」
濡れてた頬に沿わされた指に、今更ながらずきんと痛みを感じた私に琥牙が苦笑する。
「ほらやっぱり。 意地っ張りにはお仕置だね」
「きゃっ!」
肩に抱えあげられた私がなすすべも無く連れ去られようとしている────────……これ、いつものなし崩し的なパターンだ。
でも、10回位謝ってくれたし、いいのかな?