第37章 私たちの牙 後編
「真弥どのが絡むと……怪我の功名というやつですかな」
「伯斗。 なんか言った?」
「とんでもございません」
即答する伯斗さんを一瞥して、ざくざくと琥牙がこちらの方に歩いてくる。
「保くん」
「あっ、ははい!!」
自分の怪我もどこぞと、二ノ宮くんがビシッと立ち上がる。
「これ任せていい? 煮るなり焼くなり……病院連れてくなり。 必要だったらその辺のヤツ使って。 事情は聞こえたよ。 誤解しててごめんね。 で、こんなので良ければまた戻ってきたらいい」
「ッっ!! ありがとうございます!!」
ブンッ! 敬礼みたいに横に振られた尻尾。
彼に最終判断を委ねたのは、琥牙の優しさ……もしくは、面倒臭さからかも知れない。
「真弥」
それを通り過ぎて、まだ地面にへたっていた私に、伸ばされた琥牙の手を見る。
卓さんみたいなグローブみたいなのでもなく、浩二みたいに使いこなされたものでもなく、普通の男性の手だ。
「無茶するよね。 せめておれが来るまで大人しくしてられないの?」
そういや私たち、喧嘩してたのよ。
「無理」
それでつい、冷たく言ってしまったのだけど、その目線の先に泡吹いた卓さんがいて、若干後悔しなかったわけでもない。
だけどあれは、琥牙が悪い。
謝ってくるまで許さないんだから。
そう心に誓い、私はぷいっと顔を横に向け、だんまりを決め込むことにした。
「怖かったくせに……これ、母さんに殴られたんだよ、おれ。 真弥を手離すって言ったの、誰かにチクられてさ」
先ほど卓さんにやられたのとは、別の頬。
顔の右側を指差して、琥牙が細く息をつく。
「朱璃様に?」
この面子の中で伯斗さんが視線を逸らしたのを私は見逃さなかった。