第37章 私たちの牙 後編
………が、重なるような琥牙、雪牙くん、伯斗さんの呆れたような声に踏みとどまった。
「困ったね……そんな海綿体で出来た脳みそ要らないよね」
「アホだこいつ」
「馬鹿ですね」
「琥牙下品だぞ」
「ごめん。真弥の影響で」
周りはしんとして何も起こらない。
どうでもいいけど、下品発祥は私なの?
………さておき、卓さんが、私の方にぐるんと振り向いてまた目を剥いた。
「なっ!? お、おい!! お前らっあッ!??」
「………いっそ見るに堪えないわね」
言葉どおり私は軽く目を閉じた。
痛すぎて。
私の周りの狼たち、それが一斉に地面にひれ伏している。
「どゆこと?」
二ノ宮くんがボソッと呟いた。
「なんっ!? 何で…だ!!!」
喚く卓さんは置いといて、その場で行き場を無くして足踏みしてる浩二も呆気に取られてる。
「何が起こってる?」
「あのさ。 あんたがご丁寧にプレゼントした石。 今の、獣性の強まってる彼らからすると、尚更おれには手が出せないわけ。 前にわざわざ説明してあげたのに。 浅い知識しかないとこんな目に合うんだよ」
そう言いつつ、すっと距離を詰めてきた琥牙に反応して、懲りずに三度拳を浴びせようとした卓さんだった。
「この…うっ……ぐ!! ぐああああああああ!!」
「きゃっ」
膝を軽く曲げて腰を落とした琥牙。
ゴキョッとでもいうような、濁った音とともに卓さんが仰け反る。
「────────琥牙。 お前……?」
驚いたように瞬きを繰り返し目を見開いた浩二が小さく呟いた。
残像と、人体が傷付く音、与えられた苦痛の跡。
私にはそれしか分からなかった。