第37章 私たちの牙 後編
前頭部に衝撃を受け、ひざまづくように片膝をついた琥牙に駆け寄ろうとした伯斗さんを、彼が手のひらで制する。
傾きかけた上半身を踏ん張り、ぶんっと頭を大きく振った琥牙から赤い水粒が飛び散った。
その後こめかみにつつ、と新しい血液が垂れた。
「琥牙、おい。 無理は」
「見た目だけだよ。 おれって結構、石頭だしね」
石頭って。
ダラダラ流れ続ける血と反して、なんの動揺も無い彼の様子だった。
「……真弥、保くん。 こんなもので許してくれる? 痛かったでしょ」
そんな琥牙に気圧されつつも、頭の上から肘鉄食らわされる。 多分それよりは痛くない、と私は少なくともそう思った。
「ぜ、全然」
それにつられるように二ノ宮くんも答えた。
「大丈夫……です」
「そう。 ありがとう。 お陰で少しは頭が冷えたよ」
にこりと琥牙が微笑みかけ、そのすぐあと、パンッ!!
そんな、なにかが破裂したような音が聞こえた。
「……ぐっ…う!!??」
ゆっくりと片脚を引く琥牙に引き寄せられるように、卓さんが大柄な体を折る。
多分腹部を蹴ったのだと思うけど………見えなかった。
鳩尾? などと浩二が言うと多分単に腹だよ。 と雪牙くんが説明した。
「だって兄ちゃん。 カンタンに壊れるとつまんないもんな?」
あの角度なら、水平に蹴ったとすると相手には大してダメージは無いはず。
卓さんの体ならまず間違いなく腹筋バキバキだろうし。
それでも硬く腹部に腕を回し、見開かれた彼の目は、その衝撃に耐えているようだった。
「強いってそんなに嬉しい? おれにはあんたの気持ちが分からない」
「お前……っぐッ! こんな…ことをして……おい、お前ら!! 女の腕を……喰いちぎってやれ!! 思い知らせてやる!!」
荒い呼吸の間にそう言い放ち、浩二が顔色を変えて私の方へ走り寄ろうとした。