第37章 私たちの牙 後編
「──────止めろっ!!」
よく知ってる幼くも大きな声が耳に届き、それでやっと、私の体の力が緩んだ。
「あっ」
卓さんがいち早くそれに気付き、私の腕を引きずる様に咄嗟に立ち位置を反転し、それにならって狼たちも陣列を揃え直した。
「うわあ……修羅場、だね」
「雪牙様、琥牙様!」
伯斗さんの呼び掛けと同時に、最初卓さんが姿を現した方角から追ってきた様子の琥牙たちだった。
「真弥っ!」
頭上の木からぴょんと飛び降り、怯んでいる様子の後方の狼をなんなく掻き分け、真っ直ぐにこちらに駆けて来ているのは雪牙くんだ。
「ごめんね。 遅くなって」
木立の隙間から歩いてくる琥牙が、誰ともなく周りを見渡して謝罪する。
「お前ら、なんでここに?」
「母さんが里の様子がおかしいって言ってるって、雪牙が呼びに来た。 大方、それ。 その数珠のせいじゃないの。 確かに石の霊力もだけどさ、元は母さんが供牙さんのために作ったようなもんだし。 そういうのって、手を離したら本来の所へ帰りたがるもんだよね」
浩二と琥牙が言葉を交わし、その間にも雪牙くんが卓さんの隣で座り込んでいる私を凝視し、卓さんに食ってかかる。
「お前、兄ちゃんの伴侶に何した!?」
彼の大声で、今まで私を避けるように視線を逸らしていた琥牙と目が合った。
卓さんに手を上げられた時と同じに、私の身が竦む。
咄嗟に顔についているであろう傷を隠そうとし、そんな私を見て琥牙がふっと笑った。
「もう遅い……女は俺の手の中だからな。 お前ら、ちゃんと女を見張ってろよ」
「………ちょっ」
自分の盾にするかのように私の首に太い腕を回し、ぐっと引き寄せられたせいで、圧迫感に顔が歪んだ。
私をじっと見ている琥牙の表情から、人間らしい感情が消えていく。
これは間違いなく危険だ。
……卓さんが。