第37章 私たちの牙 後編
「………まあいい。 保、残念だ。 お前たち女を連れてこい」
卓さんの隣にいた狼が歩を進め、その胸元に突き付けられた浩二の刃先がその先を阻む。
残りの狼が動こうとするその前に、私は自ら前に進み出た。
というか、体が勝手に動いたといっていい。
「真弥」
「浩二お願い、皆のために引いて。 これじゃどうしようもない」
「真弥どの」
踏み出した足を引けなかった。
だってそもそも、考え無しにここに来たのは私の責任だ。
「どこかに隙があれば、里の中から応援を……」
「隙、ね」
なんとか突破口を探そうと思案している伯斗さんと浩二の表情だった。
……以前にも、似たようなことがあった。
「まあ、少なくとも今度は犯される心配はなさそうだし?」
そう無理に言ったはいいが、声が震えてるのはバレバレだっただろうか。
「女の割には中々賢い。 ここの狼は、何よりも伴侶を大切にするらしいからな。 お前さえ手に入れれば、あのやる気の無さそうな、ここの新米のトップも大人しくなるんだろう」
……ということは、今のところ私には利用価値があるわけだ。
震えてる声も、強張った体も誤魔化しようがないけれど、このまますんなり言いなりになるのは嫌だ。
「そう。 なら、これは渡さない!!」
それならせめて。
二ノ宮くんの努力を、みんなの思いがこもったこれを彼に渡すわけにいかない。
輪になっているそれを思い切っきり左右に引っぱると、案外簡単に数珠の紐が引きちぎれた。
バラバラと地面に散らばり、ぶつかり合う石の玉。
「なっ…!?? 数珠が!」
慌てて人の姿に代わり、小さなそれらを追い掛けかき集めようとする卓さんを見て、ようやく胸のすく思いがした。
「こういうのは単に繋げりゃ良いってもんじゃない。 一度分かたれたら最後だよ。 その辺の狼がつけてる石と同じ」
かがみ込んでいた彼が、怒りの形相で私の方へ振り向いたところまでは分かった。
立ちはだかったそれに反応出来なかったのは、私が鈍臭いせいだ。