第37章 私たちの牙 後編
「いつからそんな反抗的な態度を取るようになったんだ? 昔はよく可愛がってやっただろう?」
「止めろっ!」
「今はもう薹が立ってその気にはならないが。 俺が後見人になったお陰で、今の生活を手に入れたはずだぞ」
可愛がって?
その気…………って。
二ノ宮くんに、そんな趣味は無いわけで。
ずっと微かに震えてる彼。 と、彼の言動の不自然さの、最大の理由はそういうこと……?
「とんだゲス野郎か? こいつ」
「琥牙。 最初はあの美しい少年と、この里を手に入れる予定だったが、あれも今は、少しばかり魅力が薄れたな」
遠い目をして勝手に妄想してんじゃないわよ。
この人、吐きそうなほど気持ち悪い。
「加えて身の程知らずの変態ですね」
「性犯罪者も付け加えてあげて。 で、刑務所で掘られてなぶり殺されるといいんだわ」
「真弥下品だぞ」
「ゴチャゴチャと。 保、早くしろ!」
苛々した様子で語気を強める卓さんから守るように、私たちは二ノ宮くんの周りを身を寄せて固めた。
「行かせない。 二ノ宮くんは私たちの仲間だもの」
「ですな」
「有り得ん。 こんな古臭い慣習に囚われた、外界から逃げるような暮らしなど、なんの魅力がある」
「それはそっちの見方じゃねぇの」
単に無鉄砲なだけかも知れないが、この状況にもいつも通りに軽口を叩いている弟の様子にも勇気づけられる。
「違うな。 だからこそここの狼は俺についてきた。 多勢に無勢。 今の状況の、それ位は分かるだろう」
悔しい。
里はもうすぐ目の前だったのに。
頑強な地下にある里。
狭い出入口のあそこに逃げ込めば、なんとかなると私は踏んでいた。
朱璃様や雪牙くんたちと力を合わせて籠城戦ともなれば、勝機はあったかも知れないのに。