第37章 私たちの牙 後編
「まだ時期ではなかった。 お前を張っていたらその女もついてくると踏んで、二匹っばかしで追わせたが。 とんだ援軍があったのは誤算だった」
あの時、卓さんは近くにいたんだ。
それならば、私に迫ろうとするかも知れない、より大きな危険を報せようと、私を追ってくれた二ノ宮くんの咄嗟の判断は正しい。
………それに引き換え、朱璃様たちが現れるや不利とみて、仲間にした狼を見捨てるなんて。
「仕事のフリして、毎週末は里で充電してたものね」
そんな嫌味のひとつも言いたくはなる。
「そう。 お陰でこの通り、今は力が漲っている。 この里は本当に素晴らしいな」
今私の手にある数珠。
それとは別に、やはり彼の中にもまだ供牙様の霊力の残骸が残っているのかもしれない。
「それで手に入ったのがその数珠だ。 保や他の雑魚には使いこなせないが、俺は違う。 それはきっと本来の持ち主を選ぶのだろう」
「選んだとしたなら、供牙様でしょう。 貴方じゃない」
そんな居丈高な彼の態度も、所詮狐の衣を借りたものだと思うと、まるで供牙様が汚されるような嫌悪を感じた。
「フン………どちらでも同じこと。 俺は面倒が嫌いでね。 それなのにここまでお膳立てをした。 保、その女を連れて戻ってこい」
「………嫌だ、絶対に」
それでも、他の人狼と比べれば立っているだけでもその違いが分かる。
伯斗さんが言っていた、体格、頑強さ、気性───────少なくとも卓さんがそれらを兼ね備えているからだろう。
そのせいだろうか?
先ほどからの、二ノ宮くんのどこか怯えた態度は。