第37章 私たちの牙 後編
葉擦れの音が近付いてくる…………それも、いくつもの。
瞬時に伯斗さんが私と二ノ宮くんの前に立ちはだかり、浩二も慌ててその横へ並ぶ。
ザッ!! 地面の砂を巻き上げながら左右に数匹の狼を伴い、────────卓さんが私たちの目の前に立った。
「うわっ! なんだコレ。 えれぇごっついな」
伯斗さんと比べると二回りも体の大きな、緑色の瞳の狼。
黒と茶色の混ざったそれは、いつか供牙様のときに私を乗せてくれた姿だ。
「伯斗…さん」
二ノ宮くんが発した細い声に、伯斗さんが油断なく周りを見渡し警戒をする。
「分かっております。 これは『狩り』ですね」
「え……きゃあっ」
ガウッ、そんな吠え声に振り向くと、私たちの背後にいつの間にか狼たちが並んで退路を塞いでいた。
いずれも若い狼で、その数ざっと十ほどだろうか。
その首元に光る、緑色の首飾り。
浩二が素早くこちら側に周り、鞘を抜いた長刀で牽制しつつ彼らを遠ざける。
元々が長身でリーチのある彼の間合いは遠い。
後ろの方に余裕が出来たお陰で、ジリジリと近付いてこようとする卓さんと距離を保っていた。
「桜井真弥。 その数珠と一緒に手に入るのなら丁度良かった。 保、褒めてやるぞ」
「ち、がう……オレは」
小さく抗議する二ノ宮くんを遮り、卓さんが余裕をみせながら話しかけてくる。
「あの晩に、お前の仲間を痛めつけていた俺を見たんだろう?」
お前の仲間?
彼が待ち合わせていた、という二ノ宮くんと親しい狼のことだろうか。
「こっちに引き込もうとしていたのを拒んだからだ……すばしっこくて逃げられたがな」
全員が必ずしも本意というわけでもないのですな。 そんな伯斗さんの呟きどおり、浩二を避ける側の狼の中には、さして好戦的な態度が見受けられない者もいた。