第36章 私たちの牙 前編
「そうだっけ?」
私も脳筋の仲間だと?
手を叩いてグローブの砂を払いながら、また走り始めた浩二が続ける。
「フツーに上級生にも食ってかかってたし、男に対しても容赦なく」
「へ、それは無いんじゃない?」
そんな私を横目で見て、浩二が大袈裟にため息をつく。
「あるある。 見兼ねて俺が庇い出したの、覚えてねぇの? そん頃からかな、随分マシんなったけど」
記憶にございません。
私は基本的に長いものに巻かれる、そんな性格だと思うんだけど。
面倒ごとも嫌いだし。
「ですねえ。 でなければ、真弥どのは今ここに居ないでしょう。 最初お会いした際にも言いましたか。 真弥どのの肝の太さには頭が下がります。 どんな時でも恐れず俯瞰的にものを見る。 それは私たちも見習うべき強さです」
「そんな……」
伯斗さんの誇張された言葉に、若干肩をすくめた。
……でも、そう言われれば、そうなのかもしれない。
最初は単に、琥牙の関わることとなると、ついそうなってしまうのかと思っていた。
人ってものは、自覚さえなく自分を誤魔化したりする。
『まだおれは半端なままなんだね』
『だからおれは弱いんだよ』
そんな風に自分を偽っていた、琥牙と同じように。
彼が周りから未熟と思われていたのは、単に獣化や成長が、彼らにとっての『成人』のような意味を持つからなのだろう。
そんな周囲の思惑に関わらず、彼はもしかして、無意識にそう思い込もうとしてたのかもしれない。
だって例えば私だって、浩二みたいに憎まれ役を買ったり責任を負ったりなんかしたくない。
けれど必要に迫られたときに、その牙をみせる。
大事なものを守るために。
本当に欲しいものをつかむために。
結局、私たちも『彼ら』と、似たような生き物なのかもしれない。