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オオカミ少年とおねえさん

第36章 私たちの牙 前編




「………人には無理だと思いますよ? 言っときますけど、私は容量的にオーバーですからね」

「俺らの40キロ行軍とか知んねぇんだろ、爺さん。 ロードワークだと思えばいいさ」


そりゃ浩二の体力ならいけそうだけど。
それなら尚更のこと、ここからは危ない。


「まあ、ついて来れますのなら」


ふいと背中を向けて走り出した伯斗さんと一緒に、浩二もあとを追う。


「駄目だよ浩二。 遊びじゃないんだよ」

「あん?」

「危険なのはこないだで充分、分かったでしょう?」

「だから今回は準備してきたつもり」

「そんな問題じゃなくって」

「分かんねぇよ俺にも。 ただ頭から離れねんだよ」


あらら。
もしかして、本気なの?


「朱璃様が?」


ん? と眉を上げ、若干煩わしそうな顔で眼前を見据える。


「あれもこれも、丸っと全部だ。 もちろん真弥、お前のことも」

「浩二どのにも流れている血。 おそらくあの地が呼ぶのでしょう」


のんびりとそんなことを言う。
雪牙様のように単に兄弟愛が強すぎる、そう思えなくもないですが。 伯斗さんがそう付け加えた。


話す時間も勿体なかったので、私たちはとりあえず移動を再開することにしたのだけど。


──────伯斗さん的には、おそらく早々に浩二がギブアップする、などと思っていたのかもしれない。


甘いのよ。

運度神経の良さもさることながら、浩二はスタミナも人にしては半端ないし。
途中で、人が渡るには躊躇しそうな狭い崖も、あぶねぇな! などと言いながら楽しそうについてくる。


「浩二どのは人ですのに、我らの気質に近いのですなあ」


ボルタリングよろしくすいすいと岩場を登る浩二を、そこをひらりと飛び越えた伯斗さんが見下ろして待っている。


「っか? でもま、無鉄砲さでは昔っから、俺ら兄弟ん中では真弥が一番だったぜ」


伯斗さんの言葉に頷いてたら、地面に手をつき、ぐいっと体を起こした浩二の意外な発言だった。


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