第36章 私たちの牙 前編
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「真弥どの。 あの、失礼ですが。 容量もさることながら、重量があり過ぎでは」
だから容量っていうなってば。
「朱璃様と比べられても困ります」
普段は朱璃様位しか乗っけていないのだろう、そんな伯斗さんの愚痴は分からないでもない。
しかし彼女と身長差が30センチもあれば、ここは我慢をしてもらうしかないわけで。
途中までタクシーを使い、私たちが今から向かうのは人が通ることの敵わない道。
『お客さーん……困りますよ。 ペットはゲージに入れてくれなきゃ』
そう困り顔で言うドライバーさんに、これはペットモデルをしてる程の躾の行き届いた犬なんです!! などと、無理強いをして乗せてもらった。
『そんな小汚い犬がねえ……』
そうブツブツ言うドライバーさんに、ピクリピクリと反応する伯斗さんを必死でなだめつつ。
「…………しかしあの運転手。 自分の顔を鏡で見たことが無いんですかね」
「まあまあ……大丈夫。 伯斗さんはイケ狼ですよ」
道を悟られないよう、公道の途中で降ろしてもらい、いつものように里へ行く小さな洞窟を通ってきた。
そしてそこを出たら里に行くには車などは使えなく、私は伯斗さんにしがみつく以外の選択肢しかない。
「いたっ」
「ああ、申し訳ないです。 なにぶん」
「平気です。 デカいのは自覚してますから」
私だって、琥牙より小さい伯斗さんに乗るのはいまいち居心地が悪い。
ということで、これはお互い様のはずである。 そう私は木の枝で打った自分の頭を撫でながら、そう言い聞かせることにした。