第36章 私たちの牙 前編
供牙様は言っていた。
『効力を発揮するのは、同じくその恩恵のある我らの里に限ろう』
そんな特有の力を秘めた狼の里。
───────あっ。 と声をあげそうになった。
なにか忘れていたと、こないだからモヤモヤしてたその正体。
それが分かった。
「伯斗さん。 前に、卓さんがいくら強くても琥牙には敵わない。 そう言ってましたね」
私はてっきり、人狼は全て同じようなものだと思っていた。
「はい。 琥牙様の霊力は生まれ持って桁違いのはずですから」
ベンチから立ち上がり、腕を組んで逡巡する私を伯斗さんが訝しげに見ている。
『純粋な撃ち合いなら、琥牙さんとどっちが勝つんだろ』
二ノ宮くんがそう言っていた。
人狼同士は分かり合えている。 そう思い込んでいたのは、私の勝手な想像で。
そしておそらく、慎重に準備を進めていた卓さんも。
「真弥どの。 なにか考えがおありで?」
「はい。 ただ……」
琥牙。
本来的には、彼が必要なんだろう。
…………今からマンションに戻る?
『おれたちとは違う』
美緒たちが遊びに来ていたときから、そう言ってどこか、琥牙は二ノ宮くんと線を引いていた。
先ほども、二ノ宮くんに対し他人ごとのように接していた彼が進んで来てくれるとは思えない。
事実、助けて欲しいという私の依頼も断られた。
「里に行きましょう。 二ノ宮くんはそこへ向かっているはずです」
それなら仕方が無い。
これに関しては、考えたって仕様がないもの。
「里ですか。 真弥どのがそう仰いますなら」
意外にも即答して頷いてくれた伯斗さんだった。
まあ、いいや。 なるようになるし。
私が実はいつものようにこんな風に考えてるなんて、伯斗さんは知らないんだろうけれど。