第36章 私たちの牙 前編
「これは相手が、異種の強敵の場合などですが。 まず中堅の者が獲物に立ちはだかります。 それから、下級の者が壁になり、逃げ道を塞ぐ。 ある程度敵が弱った時分に、群れのトップがとどめを刺すのです。 ……つまり、仲間の連携を無くしては、私たちの『狩り』は成り立ちません」
卓さんは、仲間を増やすために……
確かに、外堀から埋めていくのは賢いやり方だ。
人間がよくやる、常套手段でもある。
「………けれど、以前に供牙様や牙汪は、確かまず群れのトップを叩け、などと言っていましたが」
里の、朱璃様の部屋で。
「それは明らかな実力差がある場合でしょう。 並外れて力のある彼らなればこそ、言えることです。 それでも例えば一対一の同族の戦いでは、私たちは無駄な戦闘はしません。 その前に、同じ人狼同士では相手の力量も分かりますしね」
「それは普段でも、ですか?」
「普段とは?」
どう言えばいいんだろう。
そう、以前にカラオケボックスで見たような戦いではなく。
「ええと……戦闘モードに入っていないとき、とか?」
「分かりますよ。 体の大きさや見た目の頑強さ、気性。 何よりも私たちの場合はその霊力で総合的な強さを持ちます」
その言葉を受け、顎に指を当てて考える。
琥牙に挑み続けた二ノ宮くん。
一方、上位の狼は本来、戦う必要さえないのだと琥牙は言っていたのにも関わらず。
「そもそも霊力というものは、人狼全てに備わっているものですよね」
「そうだと思いますが。 真弥どのも目にしましたとおり、霊力が最も強い時分の、若狼のあの変化が証拠です」
月や里の石がブースターになり、獣性が高まるという。
供牙様の霊力の残留、それは今、どこにあるのか。