第35章 彼と初めての亀裂
「琥牙さんの言うとおりだ。 この始末は自分でつけるよ。 きっとそうしなきゃならないんだ」
そう言ってふ、と口元だけで笑った二ノ宮くんの表情は年相応に大人びていて、彼には彼の、何らかの事情があるのだと、それだけは分かった。
「ありがとう。 桜井さん、琥牙さんと幸せに」
「それ、どういう……」
一瞬きゅ、と指先を握ってきたと思ったら私の手をやんわりと離し、それから再び彼が背を向ける。
「桜井さんみたいのだったら、ホントに好きんなれたのかな。 オレ」
じゃね。 掠れたみたいな声を残して離れてく、二ノ宮くんを私はそれ以上追い掛けられなかった。
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「琥牙……」
とぼとぼとマンションに戻り寝室を覗くと、外は冷えるというのに、窓を開け放してヒラヒラとはためくレースのカーテン越しに彼は座っていた。
「撤回はしないよ。 これで真弥や浩二くんにもしものことがあってたなら、これ位じゃ済まない」
変わってしまった、ではなく。
きっとこれからは変わらざるを得ないのだ。
それはちっとも楽しいことなどではないのだと、滅入った様子の彼の表情が私に告げていた。
「違うの。 琥牙」
「………?」
だけど私はあんな二ノ宮くんを放っておけない。
「助けて」
何事なのかと彼が視線でそう問いかけてくる。
「二ノ宮くんを、助けてあげて。 お願い」
「……なんなの?」
琥牙に、私の知っていることを詳しく話した。
ここまで至った経緯や二ノ宮くん、朱璃様と話したこと、彼の思い……とりわけ里や琥牙に対する気持ち。
彼がなにか一人で、おそらく危険なことをしようとしていること。
それで少しでも彼のことをわかって欲しかったのだけど、琥牙はさして気に止める様子もなく言った。
「真弥のことだから、保くんに不利になりそうなことは黙ってたんでしょ。 にしても、なんでそんなに彼を庇うの?」
「なんでって。 友達だからだよ」
私の言葉に少しだけ片方の眉をあげ、じっとこちらの目を見詰める。
「お願い、ね……真弥が頼みごとするなんて滅多にないの、分かってる? おれに嘘ついてまで」