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オオカミ少年とおねえさん

第35章 彼と初めての亀裂




「琥牙!」


そのまま寝室に向かおうとする彼を呼び止めると、一瞬振り向いた琥牙が、二ノ宮くんをに見下すように視線を投げた。


「これでも甘いと思うよ。 せっかく生き延びたのに、死にたくないんでしょ?」


だからってこんなのあんまりだ。

私も立ち上がり、俯いたままの二ノ宮くんと琥牙を交互に見ながら言った。


「琥牙。 二ノ宮くんは私のためを思ってわざわざ動いてくれたんだよ? それに、彼を一人にするのはまだ危ないって、朱璃様も」

「彼はおれらとは根本が違うんだよ。 たとえ理由がなんであれ、その責は自身で取るべきだ。 こっちの対応が遅れた、おれにもその原因はあるにしても、彼を信頼に足る仲間としては置いておけない」


そう言い残しパタンと寝室のドアが閉じられるのと同時に、二ノ宮くんも重たげに腰を上げた。


「分かり…ました」


きっとその返事は隣室の琥牙にも聞こえていることだろう。

中のお茶が冷えきって、テーブルの上に並んでる、色違いに揃えられたデザインのカップが酷くこの場にそぐわない。

根本?
一体どう違うというのだろう。
だって彼は、『こちら』側の人なのに。


「二ノ宮くん!!」


彼が無言で玄関への廊下へ向かい、この場を去ろうとしていた。
こうまでする必要があったのか、私には理解できなかった。


「二ノ宮くん、待って!」


閉じられたドアを開け、慌てて彼に続き私も外に出た。


「待ってよ!!」

「桜井さん…いいよ。 彼の言うとおりなんだ。 オレは結局半端なままでさ」


そんなことを言う彼が悲しかった。
彼を止めようと、思わずその手を取った私は必死だった。


「違うよ。 違うでしょう? 二ノ宮くんはあの時『逃げろ』って私に言った。 もしかして……あなたは卓さんのことも知ってて、私に伝えに来たの? あんな体で走り続けてまで」

「………いいやオレは、ただ琥牙さんが来ると目論んで」

「答えになってない。 二ノ宮くん、いつもみたいに私の目を見てない」


琥牙も厳し過ぎるかもしれない。 でも、一つの弁解もせずに去ろうとする、二ノ宮くんもおかしい。
今だって私から顔を背けて。
これじゃあ、ある事ないこと全て認めてるようなものじゃないの。


「二ノ宮くん。 なにか理由があるの? 力になるから話して?」


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