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オオカミ少年とおねえさん

第35章 彼と初めての亀裂




「へえ……初耳。 待ち合わせってどういうこと」


背もたれに深く座りなおした彼が、抑えた声で訊いてくる。

無言になってしまった私に変わり、二ノ宮くんが代弁してくれた。


「オレが悪いんです。 浩二くんにオレたちに対する偏見を無くそうって、ただの芝居のつもりだったのに、桜井さんを巻き込んでしまって。 ちょっと脅してもらう計画立ててたら、その前にツレがやられてて、代わりに見知らない二匹が居て……追われて」


「ふーん。 そっからの待ち合わせってこと? ………なんで真弥の所に向かったの? そのまま保くんがそこで大人しく意識でも失ってれば、巻き込まずに済んだのに」


琥牙がそんな冷酷なことを言うのに驚いた。


「それは………」

「琥牙。 そんな言い方」


二ノ宮くんが言い淀むのも無理はない。

突き放すみたいな彼の口調も、あんまりなような気がして口を挟もうとするも、そんな隙もなく淡々と琥牙が話を続ける。


「真弥の所に連れてけって脅されたの? 自分の身可愛さに、そうした?」


最初この場に少しだけ感じていた、張り詰めた空気が今は痛いぐらいだった。

二ノ宮くんは混乱して、慌ててただけじゃないの?

現に彼は私たちを庇ってくれていた。


「私は浩二と一緒だったし、二ノ宮くんが時間を稼いでくれたお陰で朱璃様たちも来てくれて、結局何事も無かったんだよ」

「黙ってな真弥。 結果論は意味が無い。 それに、浩二くんは人なんだよ。 無関係な人間まで巻き込むなんてあっちゃならない。 保くん、どうなの」


私たちはほんの少し前まで、レストランで一緒に笑い合ってた。


「………すみません。 どんな罰でも受けます」


それなのに、突然、こんな風にすっかりと関係性が変わってしまっている現実に戸惑った。

言い訳をせず肯定を示す二ノ宮くんに、琥牙が目を逸らして視界から彼を外し、それから静かに席を立つ。


「呆れた─────……面倒だから、里からもおれの前からも居なくなってよ」


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