第35章 彼と初めての亀裂
「………それ、考えてたんですけど。 一度彼と話す機会をもらっていいです?」
「なんのために?」
「迷惑は掛けません。 二人だけで」
「だからそれ、なんのために?」
伏せ目がちに口ごもる二ノ宮くんに対し、琥牙が細く息をつく。
二人の間にピリ、とした微妙な緊張感を感じて、私はそんな二人を注意深く見守った。
「あのさ、帰ってくる前に母さんにも会ってきたよ。 それにしても運が悪すぎたよね。 今回保くんたちと、うちのあの狼が鉢合わせたの」
「そうだね」
「駅から道場までは約7キロ。 里からあの現場までは、20キロ。 時速60キロ位で走る車が、偶然あの時間に彼らと鉢合わせるとか、ホント」
そんな些細なことを、今更蒸し返してくる彼を不思議に思った。
「えっと……狼が待ち伏せしてたとか?」
彼が何を言わんといてるのかを図りかねて、私が軽く請け負った。
はく、と買ってきてくれたフロランタンの一切れを口に含む。
「それで真弥。 浩二くんが言ってけど、あの道場行くの五年振り位だったんだってね。 ここまで来ると、いっそ出来過ぎてない。 母さんたちは、何とも思ってなさそうだったけど」
ほの苦くも甘い風味に、舌鼓を打ちそうになった私の動作が止まる。
いつものように薄く微笑みを浮かべていた琥牙の顔から柔らかさが消えてる。
Lineで二人が繋がってるのを忘れてた。
……浩二ってば、口が軽い。
「『偶然』なんて嘘だよね……もしかして保くん、裏で卓さんと組んでる、とか?」
「それは無い」
即答した二ノ宮くんに対して、向けられた琥牙の、明らかに疑わしげな眼差し。
「証拠でもあるの?」
「有り得ない! 確かに途中で待ち合わせはしてたけど!」
半ば椅子から立ち上がりかけて、二ノ宮くんに加勢した……つもりだったのだけれど、心の中であっと声を上げた。
もしかして、これ、はめられた感じ?