第35章 彼と初めての亀裂
「お土産にお菓子買ってきたよ。 ごめんね真弥。 週末の予定ズレちゃったね」
「それはいいけど、琥牙。 大丈夫なの?」
出かけるときは大層な様子だったが、見たところはいつもの落ち着いた彼だ。
「うん。 時々何日か、思いっ切り外で発散したらいいって伯斗が言ってた」
琥牙がマグカップを並べたテーブルにティーポットを置き、ケーキ箱の焼き菓子を確認して私が取り皿とフォークを各々の席に配置した。
「そういやオレも、そん時はずっと山篭りしてたらしいなー」
カップにお砂糖を入れようとしてふと気付いた。
いつの間にか琥牙は紅茶やコーヒーに砂糖を入れなくなり、あんなに好きだったアイスもあまり食べなくなった。
「そうなの。 どれ位?」
浩二とも、昔はアメを奪い合ったものだけど。
男の子はいつ『男』になるんだろうか。
「半年ほど。 はしかみたいなもんですよねー」
琥牙の長い指を眺めつつ彼らの会話を聞きながら、そんなことを感慨深く思う。
はしか。
言い得て妙な表現かもしれない。
「はあ、情けな。 こんな時期に……って。 留守の時に、色々あったらしいね。 それも聞いたよ。 ありがとう保くん」
二ノ宮くんの怪我をしている脇の辺りに琥牙が視線を移す。
それを受けた彼は居心地が悪そうに謙遜した。
「オレはなにも……」
口をつけたカップを静かにテーブルに戻し、琥牙がその上で指を組む。
「断っとくね。 卓さんのこと、こちらとしてはこれ以上看過出来ない。 分かってくれるよね?」
迷いのない、口調だった。