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オオカミ少年とおねえさん

第34章 里の特産月の石



力の抜けた狼から口を離し、伯斗さんが首を傾げる。


「ですが、そんな者は今まで里には」

「里にいるのはお年寄りなんですよね、採掘場でこれを守っているのも。 伯斗さんもこれを持ってなんとも無かった。 満月と同じく、おそらく若い狼にだけ効き目があり過ぎる、とかはないですか」


あくまで推論ですけど。 一応そうつけ加える。


「そういえば、私でもその者を運んでくる時は、なんだか体が軽く感じましたな」

「可能性として充分有り得る。 ものにはよるがそれは別名月の石、とも云われる位だから。 私みたいな人間にはちっとも分からんが」


それでもこういう自然物は、一般的には無尽蔵に力がある訳では無いと知られている。
地に根ざしたあの里で一等本来の効力を発揮するんだろうと推測した。

それに、なんだろう? もう一つ、忘れてるような気がする。


「こんなもので自我を失い、なにが妻子なんでしょうねえ」


また人狼の表情に戻った狼が伯斗さんの言葉に憮然とした様子で顔を背ける。
一応変化したときの記憶はあるらしい。


「保。 おそらくお前は知らなかったんだろう。 お前の叔父は」


朱璃様が言い終わるか終わらないうちに、ずっと黙っていた二ノ宮くんが激しくそれを遮った。


「嘘だ!!」
「二ノ宮くん」

「ある訳ない。 そんなのは、嘘だ…………」


悲痛な声でそれを否定する、二ノ宮くんの体が震えて包帯からじわっと血が滲んだ。
血が繋がっていないとはいえ、卓さんは一緒に過ごしてきた二人っきりの仲間だったんだろう。


「まあ二ノ宮。 ここでちいと休みなさい。 なにせ傷を癒すことだ。 何日でも良い」


口を挟むことも無く、やり取りを眺めていた山中さんがやんわりと彼の体に手を触れる。
伯斗さんもそんな二ノ宮くんに同情のこもった、しかし厳しい視線を送った。


「出来れば……そうですね。 今戻るのは危険かもしれません」


顔を伏せたままの二ノ宮くんにかがみこみ、そっと手を握ってみた。


「桜井さん?」

「二ノ宮くんみたいに、人になれる人狼にはなんともないのね?」


直に触れさせた石に対し、彼の場合は顕著な反応はない。


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