第34章 里の特産月の石
それで朱璃様。 この者がこれを。
立ち上がった伯斗さんが口から吐いて床に置いたのは、首紐らしきものにくくられたあの石の欠片だった。
私が以前伯斗さんからいただいたのはもっと七色の丸いもの。
立ち上がって手にしてみると、それはいびつな形ではあったが若干薄緑がかり、ぼんやりと光を放っているように見えた。
「返せよ! 仲間の証だって、貰ったんだ」
「ほぼ原石に近いものだな。 これを身に付けているものが、そっち側の者だという目印なのかなあ……どこぞの宗教でもあるまいし」
呆れたように言う朱璃様。
高価ではあるが、里ではこの出自を恐れて滅多に売買には使われないと聞いている。
「いえ、少し違うと思います」
「真弥?」
不思議そうに私を呼ぶ浩二の隣に座り、私が狼の方へと手を伸ばした。
「浩二、伯斗さん。 この人抑えてて下さい」
そう言って狼の額の辺りにそれを置くと、一瞬目を見開いた彼が激しく威嚇の声をあげ始めた。
「───────ッグルル……ッ!! がァァァっ!」
「わっ!?」
驚いた浩二が体重を掛けてそれを抑え、また石を取ると大人しく床に頭をつけフゥフゥと息をする。
朱璃様が先ほど言ったように、まるで野生のただの獣に戻ったさまは、先ほど外で見た彼と同じ。
今も月の影響は変わらないというのに。
だってここでいくら粗暴な態度を取ろうとも、改めて見ると『これ』と里の人狼とは全く違う。
その様子を見ていた朱璃様がこちらに近寄り私に聞いてきた。
「今のはなんだ?」
「前に供牙様から、聞いたことがあるんです。 これには多くの霊力が込められていると。 おそらくこの彼にとっては強すぎて、ドーピングというか、覚醒剤みたいなものじゃないんですか」