第34章 里の特産月の石
「うん? ああ……そうでもない。 なんか、楽だな。 痛みも和らいで」
「良かった。 そしたらこれは二ノ宮くんが身に付けてたらいいよ。 脇の傷が少し深いみたい。 早く元気になってね」
傷付いている方に近い腕に緩くそれを巻き、人の姿になっても圧迫しないよう、すぐに外れるように結んでおいた。
「桜井さん……ゴメンな」
「なんにも謝ること無いよ。 しばらく毎日浩二とここに来るから」
それを聞いて二ノ宮くんの傷を覗き込む朱璃様が言う。
「ああ、真弥。 それ位ならそう長引くものでもない。 雪牙のときも然り、人狼の治癒力は尋常ではないからなあ」
「ほうほう、これは……便利なものですな」
感じ入ったように顎に手をやる山中さんだったが、確かに表面に血が滲んでいた程度の外傷などは、既に塞がっている様子だった。
「山中どのといったか。 今晩は得体の知れない私どもを受け入れてくれ助かりました。 しかし出来れば、我らのことは……他言無用に」
「分かっています。 周りと異なり過ぎるものは混乱や諍いを呼ぶもの……あなた方の苦労は、ここのところこちらにしげく通っていた二ノ宮を見ていれば想像出来ます」
従容たる態度を崩さない朱璃様に対し、山中さんは彼女に対する初見の印象を改めたようで、同じく丁重に接する。
「それに、浩二。 これは私にとって一番の弟子であり子のようなものでして。 その知人とあっては見過ごせませんよ」
照れ臭そうにポットのお湯を替えにいこうなどと立ち上がった、浩二を微笑ましく眺めながら穏やかに話す山中さんに、朱璃様がまたお礼を言った。
小学生の頃からずっとここに通っている浩二を、山中さんはそういう風に思っていたのだと有難かった。
日頃から鬱陶しいほど私や妹たちに干渉する彼だが、一方で、そんな弟を見守ってくれていた存在であったのだと。
浩二にとってはここは第二の家みたいなものなのかな?
諸々のことがありドタバタしたけれど、今日のところはなんとか収まったようだ。