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オオカミ少年とおねえさん

第34章 里の特産月の石



仕切りから姿を表した伯斗さんがズルズルと口に咥えて引っ張ってきたのは先ほどの狼。
寒空の中あのまま放っておく訳にもいかなかったので、浩二が車のトランクに放り込み、ここに移動したのだった。

伯斗さんに抵抗出来ない位にはまだ体が思うように動かない様子だったが、荒い呼吸の合間に「離せっ…! このジジイ」などと憎まれ口を叩いている。

そんな彼を引き立てて、伯斗さんが狼の傍の出入口に座り監視役を買ってでる。


「おい、若造。 此度のお前の目的は?」

「知らねえよ」


朱璃様の問いに投げやりな反応を返す。
里にいた慇懃な人々とはえらい違いだと思う。


「里を出る際に聞いた者がいる。 琥牙の伴侶、真弥を拐うと言っていたそうだな?」


ん、私?

浩二がぴくっとその言葉に反応して狼の方に近付いた。
しこたまガシガシと浩二に蹴られてたのはこちらの方の狼だっただろうか。 彼を見た途端に、ヒッと声を上げて姿勢を低くする。


「……オレはそっちに倣っただけだろ。 そっちだって、オレの家族を人質に持ってるだろ!?」


これだけの面子を目の前にしても反抗的な素振りを隠さない。
この気丈さと度胸の良さは種族的なものだろうか。



「お前の居る、危険な地に家族を寄越すのか? それでお前とお前の妻子は安穏と暮らせるのかな」

「……っなにもオレじゃなくたって、いいだろっ? 他の奴を探せば」

「それこそ里には女子供、年寄りしか居ない。 里に近付けさせる訳にはいかんのだよ。 それは何処の群れだろうと同じだろう」

「っんなの! 卓さんがリーダーなったら、オレらを守ってくれるって約束したんだよ! 里ん中で一緒に住めるって」

「その卓が真弥を拐えと命じたのか」


うっかり、という感じで口走ったあとにふいと視線を逸らし、狼は決まりが悪そうに再び沈黙した。


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