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オオカミ少年とおねえさん

第34章 里の特産月の石



もはや諦めきった表情の彼がそれに答え、山中さんがふ、と安堵したように言う。


「話せる元気はあるようだ。 ではとりあえず、ここに布団を引こうか。 私は薬や飲み物などを持ってこよう。 外は寒かったろう? なにか温かいものを出そうか」

「私、お布団準備します」


そんな訳で私たち一行は靴を脱いで玄関から上にあがった。

ごく自然な流れで、道場の奥に進み出て、押し入れを開けよいしょと敷布団を襖から引っ張り出す。
夏季合宿やなにかで、こちらにはそんなものは豊富にある。


「真弥タオルはそっちにあるか」

「あるよーいっぱい……でなくって」


訝し気に顔を向けた浩二が使えそうな敷布を手にし、私の横で作業を始める。
のほほんと、どうした? じゃないわ。

「あ? なんだよ。 眉間にシワ寄せて」

「勝手に二ノ宮くんの正体バラすなんて。 でもなんで動じないの? 山中さんって」


大量の座布団を積み上げはじめた浩二にこそっと聞くと、これ位で驚く方が軟弱なんだよ。 などととよく分からない返事がかえってきた。

浩二だって、割とどうでもいいことに動揺するくせに。


「大体、こんなとこに住んでたらキツネやタヌキっぐらい化けて出んじゃねえの」


そんな風に片方の口角をあげてくくっと笑いを洩らす。
まあ、それは置いておいて。


「浩二、ちょっとお願いがあるんだけど」

なんだ。 とこちらに目だけを向ける彼に言う。

「今晩、私たち三人が一緒にいて襲われたってことにしといてくれる?」

「なんで?」

「なんででも」

「…………?」


よく分からんが了解した。 と浩二が片手をあげた。

話すと余計混乱しそうだし、ただでさえややこしいのに。
まず話し合うべきはあの悪い奴らのことよね。

うんうんと頷きつつ、私たちは座布団やら敷布団を抱えて彼らの元へ戻った。


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