第34章 里の特産月の石
「浩二。 随分と賑やかだねえ……ああ、真弥ちゃん、すっかり女性らしくなって。 っと?」
「山中さん、ご無沙汰です」
「朱璃と申す。 夜分に済まない」
「…………」
二ノ宮くんと伯斗さん以外が口を開いた。
礼儀正しい伯斗さんもそれにつられかけたが、どうやらここはぐっと堪えたようだ。
「これはこれは、女性連れとは珍しい。 浩二にも良い人が出来たのかな?」
ちらっとこちらに目をやり山中さんが微笑むも、浩二はどことなく複雑そうだ。
今は止めてあげていただきたい。
ちなみに朱璃様は自分のことを言われているとは思っていないのだろう、無表情である。
「ん? そこな犬は、怪我をしているのかね」
こちらに寄ってきた山中さんが、浩二に抱えられている二ノ宮くんに興味を示した。
「あ、はい。 その……出来れば治療をさせていただきたくて」
遠慮がちに言った私に、浩二がそれに被せてスパンと真顔でぶっちゃけた。
「これ二ノ宮です。 見たところ多分骨は折れてません。 出来ればまず消毒をしたいのですが、毛が邪魔だな。 朱璃、こういうのはどうするんだ」
脳髄まで筋肉なの?
さすがの朱璃様も咄嗟に言葉に詰まり、そんな我々を見渡して山中さんが目を丸くした。
「ほう、それは……」
時間が時間だけに、目の前の畳張りの道場には、既に人は居ないようだった。
加えて、確か山中さんは独身のはず。
それだけは救いだったか。
それにしても、いきなりカミングアウトなんかして、頭がおかしくなったと思われたらどうすんのよ。
「二ノ宮、お前ほどの者がどうした。 事故か? 表面が抉られた……刃物、でもないな。 一応ひと通りのものはあるが風呂は体が冷えるし……酒でもかけりゃいいのかな」
おろおろしている私に介さず明後日の方向に悩み出す山中さんに、他方で、注意深く目を配っていた朱璃様が前に進み出て、二ノ宮くんに小声で聞いた。
「……保、人に戻れるか?」
「今はしんどいっすね、けど少し休めば」