第34章 里の特産月の石
かなり昔はお寺だったという、弟が通っている道場。
それは先ほどの現場から5分ばかり車を走らせた、山すその石段を登った上にある。
ろくな明かりもない一本道の階段を、一見して風変わりな私たち一行はそぞろ登っていた。
フクロウか鳩だろうか。何羽か、闇夜の中を機嫌よさげにホーホッホホッと鳴いている。
「確かに場所を変えろとは言うたが、ここは人家なのだろう?」
二ノ宮くんを肩に担ぎ上げて先を行く浩二に、後ろを歩いていた朱璃様が口を開いた。
今晩は天気が穏やかといっても暦の上では冬で、薄い道着を身に着けただけの彼女の吐く息は白い。
「問題無い。 二ノ宮の応急処置も出来るしうってつけだ」
「浩二、アメ食べる? 寒くない、上着貸そうか」
「浩二くん。 今度飲みにいこーよ。 奢るよ」
「………なんだお前らはさっきから。 いらねぇよ」
胡散臭げに浩二にあしらわれるも、私と二ノ宮くんが肩を竦めて顔を見合わせる。
だって、ねえ?
「………なんですか、これは」
目的地の入り口に近付いた伯斗さんが戸惑った声を出したのも無理はなく。
今どき珍しく古めかしい和風家屋の門の両脇で、ギラギラと七色に移り変わる光を放つ、それらの装飾はどことなく異様な光景だった。
「今月はクリスマスだからな」
「おっさんのこれ、オレも手伝わされたよー」
「おい二ノ宮。 師匠って言えよお前」
「相変わらずなのね。 お師匠さんのイベント好き」
「世間はクリスマスか。 ふふ、懐かしいなあ」
こてこてに飾り付けをされた二本の大きなツリーの間を通り、引き戸を開けると浩二が遅くなりました、と戸口で大声を張りあげた。
出迎えてくれたのは還暦を過ぎた辺りの、眼鏡を掛けた、どちらかというと小柄な男性。
柔和な顔付きでなで肩の体型は、こういっては失礼だけども、そこそこ大きな道場の師範をしてるようにはあまり見えない。
この人がお師匠さんの、山中さんである。
浩二に連れ立ち、昔は私もここによく遊びに来たものだ。
『子供たちや町の人にも親しんでもらえるように』
そう言って七夕やクリスマスなどのイベントを欠かさない、優しく人徳のある人だ。