第33章 不倫→バトル→なんで恋?
草場に倒れ込んでゼーハー言ってる二ノ宮くんの方が重症なのは分かる。
それでつい、はい! などと素直に返事をして私は彼の元に向かったが、どこか心ここにあらずというような浩二の表情に、なにか不自然なものを感じた。
「お前は真弥の知り合いか? 勢いで助太刀を頼んでしまったがかたじけなかったな。 ああ、お前も腕を……見せてみろ」
ついと朱璃様に手を取られた浩二だったが、その彼の視線は血が滲んだ自分の腕ではなく、傷を見る彼女にじっと注がれている。
「平気だ。 表面掠っただけで」
「衣服を分厚く巻いていたのが良かったな。 如何にも接近戦を好む男らしいが、いくらその体でも獣には適わんぞ? 得物の使い方も覚えておけ」
総合格闘技をしている浩二も槍などは出来ないことはないはずだ。 今日は準備が無かっただけで。
だが普段は負けず嫌いな彼から、そんな言葉が口に出ることも無かった。
「つか、コロボックル。 お前も真弥とどういった」
「朱璃様。 この者は真弥どのと近い血筋です」
浩二を遮り、伯斗さんがヒクヒクと鼻を動かして朱璃様に説明する。
その言葉を聞いて、彼女が浩二を見上げにっこりと微笑んだ。
「そうか。 では……弟君かな? 会えて嬉しいぞ。 許されるのなら真弥の肉親に挨拶をしたいと思っていた。 しかし、お前。 諸々と動じん男だな? あの保と伯斗を見ても何とも思わんとは」
「………朱璃」
彼女の言葉が聞こえているのかいないのか。
浩二は熱に浮かされたようにぼんやりとその名前を反芻していた。
「─────いてて……桜井さん。 ちょっと、あれって」
「これは今日一番の予想外だわ………」
二ノ宮くんと私は固唾を呑んでそんな二人の様子を見ていた。
この寒空の闇夜に、浩二の周りには暖かな陽だまりに咲く色とりどりの花が乱舞している──────……ように見える。