第33章 不倫→バトル→なんで恋?
「ハハハッ! 我より弱い獣など、元より生きる価値は無い!!」
「確かに、ね」
彼女に笑い飛ばされ、とうとう彼がしっかりと体勢を立て直す。
そして朱璃様からの初撃のダメージを受けていた、彼の近くに居た一方の狼に飛びかかっていった。
「あっ、浩二!」
続いて、私の目の前の弟も。
止めようとして前に踏み出した足をまた引っ込めて、私はその場で彼らの様子を見守った。
傷付いた二匹、いや正しくは、一人と一匹が飛び出して行ったのは無理からぬことかもしれない。
この状況はおそらく、強さを信条とする、彼らの意地や比護欲といったものを堪らなく刺激するに違いない。
小さな人間の女性……それが、自分と同じかそれ以上の大きさの獣と戦っているのだから。
彼女の演武のような足運びと共に、残像を残して流れる銀色に光る刃に翻弄される狼たち。
きっと長い時間の、気の遠くなるような努力を重ねて、朱璃様は自らの戦い方を手に入れたんだ。
種族や体格、性別を超えて。
卓さんみたいな人ではなくとも、なぜ彼女がその身で長年あの里を護れてこれたのか───────……私はそれを目の当たりにして、ただじっと見入っていた。
その間。
『いくらあの叔父が強かろうと、琥牙様には敵うはずがないのです』
私はつい最近、そんなことをマンションのキッチンで伯斗さんたちと話していたことを思い出していた。
『──────なあ真弥。 兄ちゃんが二ノ宮に手心加えたってホントか?』
その後に雪牙くんが、暗闇で青い目を私に向けて訊いてきた。
二ノ宮くんが琥牙に挑んできたことである。
『うん、多分? 実際彼、大した怪我しなかったし。 いくら強くなったっていってもほら、琥牙だから』
『へ? 強くなったって?』
『牙汪のお陰で強くなったんでしょ? 元は里でも頼りない跡継ぎの扱いされてたとかって』
記憶を辿りつつ説明する私に、二人が不思議そうな表情で顔を見合わせる。
『いえ、確かに里で矢面に立っていたのは朱璃様ですが、必要な時に動いていたのはいつも琥牙様でしたよ』
『自分はまだ半人前だし表に出たくないって言ってたからな! でも、詰めが甘いのは相変わらずなんだな。 兄ちゃんが誰よりも強いのは昔っからだぜ』