第33章 不倫→バトル→なんで恋?
「ふむ。 こういう時の狼は持久戦では骨が折れる……そこの、突っ立ってる人間!」
「は………俺?」
一連の成り行きをぽかんと見ていた浩二が、朱璃様に威勢よく呼びかけられ、我に返ったような顔をして自らを指差した。
「加勢せよ。 そんな恵体で、か弱い女を戦わせるつもりか?」
「へ? いや全然、余裕そうに見えるけど………てか今度はなにこの、異様に戦闘力あるコロボックル」
ふっと不敵な笑みを浮かべた朱璃様の槍が今度はヒュッと空を切り、倒れている二ノ宮くんの方向を真っすぐに指した。
自在に闇の中に銀の流線を描く刃先、それは朱璃様自身の、しなやかに流れる五体の動きに支えられている。
柄に添わせた小さな指先さえも、自らの一部に扱う。
それはまるで、月光の下に優雅に舞っているかのように見えた。
そんなものを見慣れないと思ったのは、浩二の方が先だったのだろう。
朱璃様をまじまじと観察しつつ呟いている。
「俺とこの動きじゃない。 昆がしなるせいで軌道が読みづらい。 待て中国槍術か、これ」
「あんなにみょーんってなってるのに折れないのね。 柳の木かなにかかな?」
「ああ、力のない女性が扱うには技術さえあればその方が『払い』でも有利なんだろうが、高さがないと………いや、対人じゃないから、逆に奴らみたいなの相手には適解なのかな」
格闘オタクの弟は放っておいて、当の朱璃様はと。
腰に手を当て里の部下を𠮟りつける女上司──────といいたいところだが、如何せん彼女の容姿が可愛らし過ぎる。
「保、お前もだ。 お前が弱いのは、長らく人の世界のぬるま湯に浸りすぎていたせいだろう。 我らの世界の戦いは時に生死をかける。 とっとと立ち上がり取り戻せ。 獣の血を!」
それでも声も高らかに余裕すら感じさせる彼女の威風は、周囲の人と獣から言葉を失わせた。
「………朱璃様がそれ言いますかねえ」
二ノ宮くんがぶんぶんと尻尾を振って立ち上がり、怪我が痛むのか顔をしかめている。