第33章 不倫→バトル→なんで恋?
「………マジかよ」
浩二がボソリとそう呟いて、素早く来ていた衣服を脱いだ。
上着とTシャツのそれらを腕に巻き込み、再び私の前に立った。
彼の背中からいくつもの、筋になって垂れる血を見ながら、恐怖心が先に立つ。
先入観無しで改めて狼たちの表情をみると、眉間に入り込んだ深い皺。
暗がりで光る鋭い瞳と、黒い歯茎から剥き出しになった大きな牙。
敵意以外のものは見受けられない、それはただの野生の獣。
『例え体重三キロ足らずの猫でも、本気で来られたら普通の大人の男でも敵わない』
いつか琥牙が教えてくれた、その意味が今は痛烈に分かる。
もしも人の歯と指が全て刃物なら。
そしてそれらが人を凌駕する力を持つのなら。
加えて目に追えない速さで襲ってこられたら。
硬い筋肉に覆われた大きな体が、荒い呼吸のため興奮気味に上下している。
ましてや人ではとても。
二ノ宮くんでも敵わないのに。
「浩二、止めて」
「真弥一応運転出来たよな? 二匹とも引きつけるから、隙見て逃げろ」
浩二がちら、と二ノ宮くんの方を見たのが見て取れた。
彼と目が合った、二ノ宮くんの瞳にほのかな生気が宿る。