第33章 不倫→バトル→なんで恋?
もうそろそろいいんじゃないの?
そんな思いで二ノ宮くんを見て、その時彼の目が大きく見開かれたのに気付いた。
「ダメだ桜井さん!!」
獣の荒々しい威嚇音が急接近し、それから私の上半身に腕が回りぐるんと回転して、二回目に目を開いてやっと、私は今の状況を理解しかけた。
「────浩二っ!?」
二ノ宮くんのところから直線上に、数メートルの距離に着地した狼は低い姿勢を保っている。
咄嗟に私をかばった浩二の背中。 肩甲骨の辺りが衣服ごと切り裂かれていた。
そして改めて目線を素早く移し、よくよく見ると倒れている二ノ宮くんの体の色がおかしい。
暗がりの中の濃いあれは、血だ。
そして彼は今、人の言葉を話した。
「逃げろ。 ……これは違う奴らだ。 狙いは桜井さんだ」
彼が話しているということは、きっと今尋常ではない出来事が起こっている。
浩二が額に手を当てながら、確かに聞き覚えのあるだろうその声に戸惑いながら応える。
「………二ノ宮? おい、これ」
「話してる場合じゃない。 浩二くん、彼女を……桜井さん! 琥牙さんは!?」
琥牙は、山に。 そうじゃなく、通常であれば真っ先に伴侶の危機に駆け付けるであろう、彼のことを聞いているのだと察した。
『五感さえも役に立たない──────…』
去り際の伯斗さんの言葉。
分からないけど多分。
今琥牙には、そんな余裕はないはずだ。
ふるふると首を振る私に、二ノ宮くんが瞳に暗い陰を落とした。