第33章 不倫→バトル→なんで恋?
「そ? 暇だね。 でも言い訳じゃないけど、被害者こっちだかんね。 いちお毎回録音してるし」
被害者?
おもむろに彼がスーツの内ポケットからプラプラと自分のスマホを見せてきて、そこに並んでいる課長とのやり取りらしき、日付と通話記録。
んーと。 課長は彼の上司だから、もろもろまとめて。
「ハラスメントってこと?」
彼女のフルネームと日付でソートされたそれらを暗転し、再び二ノ宮くんがスーツにそれをしまった。
「ん。 でも、面倒だからいいかなってね。 世帯持ちの上司に突っ込むのは嫌だけど、こういうのまだ男の方が不利だし。 今んとこここ辞めたくないから」
そりゃまあ、職場の上司じゃ面倒臭いだろう。
うちの会社って、案外レベル低いのね。
一瞬同情しそうになったけど、私は彼と同じに普段どおりの顔を保ってみた。
だって下僕っぼく見えても、この人本当はプライドが高いと思う。
負けず嫌いだし。
「こないだ言ってた気持ちがなくても出来るって、こういう意味?」
「違うね。 だってオレ、出すどころか勃っても無いし。 それでもオレらが物理的に出来るのは、桜井さんも知ってるでしょ? テキトーに腰振って誤魔化してるだけ。 あの人、よく開発されてるみたいで普段はしつこくなくってそれだけは助かる」
彼らって、普段からそこそこ硬いのよね。
なんだか逆に不憫な。
種馬にさえなってないじゃないの。
サービス残業的なものかな、と今度は私が首を傾げた。
「ご苦労さまなのね?」
「ははっ、発情してたら逆に痛いっしょ。 軽い筋トレだと思えばいーよ」
「どうしても人相手にはその気になんないもの?」
「んー、珍しく無いと思うけどね。 確かに生まれが人だったら人にいきやすいってのはあるだろうけど、オレは早くに二次性徴して獣化したし、雌の人狼なんてそうそう居ないし。 琥牙さんの父親だって、雪牙くんの母親は雌狼でしょ?」
確かに。
早いうちに狼の姿になったのなら、自分と同じ姿形の異性を性の対象としても見るようになるというのは自然なことかもしれない。
これまで二ノ宮くんを異常性癖扱いしてた自分が短絡的に思えた。
それから、狼から人に変わるパターンもあると伯斗さんからも聞いている。
同じにみえても彼らには彼らの、個々の事情があるのかもしれない。