第33章 不倫→バトル→なんで恋?
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私の所からみて、階段を一つ上がった上のフロアが、私と同じ社で働いている二ノ宮くんのいる部署である。
私は琥牙には内緒で、ちょっとだけ彼と話したかった。
とはいえ、共通の知り合いがいる訳でもなく、平日に二人っきりで飲んだりするのも少し抵抗があった。
私には琥牙がいるし向こうは一応は、男性なわけだし。
それで今日の私は届けものやら何かにかこつけ、自分の部署から頻繁に三階に通ってるわけだけど。
「やっぱり偶然を装ってばったり会って、自販機でコーヒーでも、みたいなのはないよねえ」
いくら同じ会社といってもウチだって零細企業ってわけじゃなし。 そう心の中で呟いて、閑散としたデスクが並ぶ彼の部署をちらと目をやったあとに、廊下の向こうに────────運良く、彼らしきターゲットを発見した。
「おーい、に」
私の呼びかけもむなしく、それに気付く様子もなく彼が入っていったのは、ミーティングスペース内に奥まった、比較的少人数向けの一室。
ただし彼と同じ人事部の課長(女性)と。
こんな時間から二人で会議? そう思い、スマホから社内のイントラを覗くと、課長の名前で確かに会議室には予約が入れてある。
そこに、二ノ宮くんの名前は無い。
うちの会社、結構手続き関係は細則まで煩いのよ?
なんとなく引っ掛かり、隣の資料室のドアをこっそり開けて、周りを見渡し人が居ないのを確認してから私は中に入った。
雑多な資料室には小さな明かりがあったが、それを付けると廊下に光が漏れるだろう。
長い時間こんな所を使ってると思われたら怪しまれるかも。
暗い中をそのまま入口から壁際づたいに歩き、とりあえず、隣の会議室の様子を伺ってみた。
直後、ドン! という向こうの壁に、何かがぶつかってくる音がした。
そこから聞こえてくる、クスクスと笑う声。
『……────────ァあッ……』
のちにしばらく、押し殺したみたいな女性の、アノ声。が。