第32章 Plan - Do
「良い悪いでは無い。 お互いにとって不可欠なだけだ。 伴侶とはそういうものだろう? その中で何を選びとるかをおのおの考えれば良い」
それに反し、思ったよりも力強い彼の返答に、別の意味で驚いてしまった。
「そこを違えると惑う。 どんな時も最大の敵は自らの迷いだ。 順番を間違えないようにしなければな」
私は間違ってないんだけど。
で、そんな彼をあんまり責めるつもりもないんだけど。
にんげんだもの。
厳密にいえば違うか。 そんな下らないツッコミは脇に避けつつ、供牙様の胸に頬をつけて甘えた。
「でも、狼の社会って血筋とか色々、面倒なものですね」
「そうか? 私から見ると人の世界の方が複雑奇怪に思えるがな」
久しぶりに聞く彼自身の声が心地好い。 そう思った。
水面の波紋のように、粛然と落ちては響く。
それをもっと聞いていたいとでもいうように、私は脈絡のないお喋りを続けた。
「大体、今どき長兄制度とか、家族より群れを重んじろとかそういう考えなんて、人間の社会ではとっくに淘汰されてるのに」
「淘汰されないのには理由がある。 それらが廃れたお前の社会はみな幸せなのか?」
「……そうでも、ないです」
私は特に懐古主義なわけでもリアリズムなわけでもない。
得るものもある一方、失ったものもきっとある。
毎朝電車や会社の中で、息苦しく思っているのは私だけじゃない。
それよりこんなに便利になったというのに、仕事がちっとも減らないってどういうことなの。
供牙様がそれには言及せずに言葉を続けた。
「長兄制度は我らのその資質に寄るだろう。 血筋もさるもの、そもそも最も霊力が高いとされるのが長兄だからな」
「霊力………」
彼らとの会話の中で、今まで幾度と聞いていたワードだ。