第32章 Plan - Do
「まつ毛長いなあ」
羨ましい。
一ミリ分けてくんないだろうか。
銀色に不揃いな、細いそれらが目の縁で糸みたいな無数の影を落としている。
きりっとした、だけどどこか艶めかしさが漂う薄桜の唇。
高い鼻梁に沿って配置されたパーツの一つひとつが繊細で美しく、思わずため息が出てしまう。
かがみ込んで美術品でも鑑賞してる気分で見入ってると、薄っすらと開けられた金の瞳が静かに私を見返してきた。
「あの、お邪魔してます……」
至近距離で見過ぎていたのに気付いて慌てたが、彼の指がさらさらと私の髪をすくい、しばらくとそうされて、猫でもないのに心地良さに喉を鳴らしそうになる。
「特に心配はしていなかったが、女の色香を濃く纏うようになった。 真弥、愛されているようで何よりだ」
「供牙様。 眠っていたのですか………?」
そう聞くと供牙様は長い両腕を伸ばし、私の脇をひょいと持ち上げて、胡座をかいている腿の上に横抱きに乗せた。
いやだから、私、猫じゃないんですって。
視界の中で彼の胸元から覗く真っ白な肌に、自分の顔がぽっと赤らんだ感じがして俯くと、落ち着いた声が頭上から降ってきた。
「そこに居ればいい。 お前がこうやって私を呼ぶ時は、なにかを不安に思っているからか? そうだな……最近はよく眠る。 以前人の世界に下りて、少しばかり疲れたのかも知れん」
「だ、大丈夫なのですか?」
「大事無い。 こうやってしばらくと休めていれば、元に戻るほどにしか私は力を使っていない」
そう言って、ふ、と目だけで微笑みかけてくる。
どうだか。
どこかの誰かさんみたいに、自分を省みずに無理するくせに。