第32章 Plan - Do
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「──────ああ、そういえばまだ月は丸いのね」
彼らが出て行ったあとのベランダの室内側に立ち、見送ったなりの薄着のままで、私は雨上がりの雲間から薄らぼんやりと光る夜空を見上げていた。
『雪牙と山に行ってくる』
修験者のような厳しい顔でそう言い残し、琥牙があとの二人と連れ立って出て行こうとした。
待って。
………また置いて行かれるような気がして、咄嗟に彼の服の裾を掴んだものの、なにを話そうかと迷った。
いつ帰ってくるのかなとか。
変わらず傍にいてくれるのかとか。
『…………?』
言い淀んでいる私を、ベランダの手摺りに足をかけた琥牙が訝しげに見た。
『あの……お祝い、は、してくれる?』
視線を上げながらおずおずと小声で伝えると、仕舞いに彼はなんだか怯えた目をした。
『ホント今、上目遣いとかやめて? する。 もう、なんだってする。 けどごめん限界。 死にそう』
などと首を振りつつ、久しぶりにばふんと狼に姿を変えた琥牙は雪牙くんを伴い、流れ星みたいに木立の間の宵闇に消えてった。
『先ほどもお伝えしたように、二次性徴を終えたばかりの雄の本能は凄まじいものがありますから……それこそ五感を支配される位の』
その後、そんな琥牙のフォローをしてくる伯斗さんに、はあ。 と私はそう曖昧に頷いておいた。
私だって頭からばりばり食べられるのは嫌だからね………