第32章 Plan - Do
「両者の強い希望で結婚をして里に迎えられましたが、ずっと前お話したように、今は亡きお姉様のが生まれたあと、二人の間にはなかなかお子が出来ませんでした。 純粋な人狼と人との妊娠は難しいと判断され、雪牙様の母である二人目の妻をもうけたのですが、その頃からですかね。 朱璃様が変わり始めましたのは」
そして伯斗さんが話を区切り、私の方に顔を向けた。
「今の里の状況もあるでしょうが、琥牙様は真弥どのとの今後を考えるにあたって、こう言っておられました。 『真弥を自分の母親のようにはしたくない』と」
「………朱璃様みたいに?」
どこか労わるような表情の伯斗位さんを、私はきょとんと見つめ返した。
「夫に早逝され、里を守っている朱璃様の苦労を、琥牙様は幼い頃から見てきたわけですから」
狼は身内をとても大事にすると聞いている。
「そうだったんですね………」
ああみえて琥牙も彼なりに、親思いなんだろう。
朱璃様のためにも、彼は帰らなくてはならない。
膝の上で置いていた手を、きゅっと握り込んだ。
彼が私から離れると思い始めて、ともすれば………最近伯斗さんたちの訪問も無かったのは、わざと彼が私から引き離していたのもあったのかな。 とそんなことも思う。
「頭では理解出来ますけど」
逆の立場なら、なんとなくは。
そして私だって最初は、なんで朱璃様は旦那さんが亡くなって、人の世界に戻らなかったんだろう、なんて考えたもの。
けれども今は。
たとえば仮に『そう』なったとして、自分の子供を置いて、彼らとの関係を断つことなんて考えられない。
琥牙が普通よりもずっと危険な立場に就こうとも。
そうならないためにも、私は彼の足手まといではいけない。
私はなにをすれば?
彼の助けとなるために。