第32章 Plan - Do
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「先般の出来事があって、私たちは気が緩んでいたのだと思います」
そんな風に伯斗さんが切り出して、何しろ琥牙様が無事に成長する。 10年以上指導者が不在の我らの里の状況の中で、何よりも重要事項だったのです。
ただしそれは、秩序を重んじる、私も含めた古参の思いに過ぎなかったのかも知れません。
そう続けた。
「まだ表立ってはいませんが、里は今、二分化にでもなりそうな、危うい状態にあります。 ろくな調べもせず新たな仲間を迎えた我らも迂闊だったのでしょう。 ……そもそも、我らの里では、若狼は里の外の警備に当たるのが常です」
「たしか人の目をくらますために、子供を質に取っているとか」
里の外にいくつか点在していた拠点。
彼らはそうやって厳しい秩序の下に、本拠地を守っていると聞いた。
「そのような掟も、強い指導者に対する忠誠心があればこそ。 我々の事情も伝えずに段々と鬱屈を溜めるようになっていた彼らの気持ちに、私たちは気付けなかったかったのです」
「まだ大々的に、里で兄ちゃんのこと公表してねえのもあるけどな」
「そんなことより今はすることあるから。 別にいいと思うんだよ、個人的には。 分家だろうと血が薄かろうと、悪意も無くてやる気があるんならリーダーなんて譲るよ」
琥牙様。 ぴしゃりと跳ね除けるような伯斗さんの視線と物言いに、琥牙が再びばつの悪そうな顔をした。
「その悪意が問題になっているのです。 加えて血筋とは、単に紙に書いた掟ではありません。 いち早く異変に気付いたのも、やはり琥牙様でした」
琥牙と雪牙くんが顔を見合わせ、確認するような視線を送り合う。
「こないだ里に寄った時、採掘場から、外部の匂いがしたんだ。 それもうちの若い奴らも混じった、複数で、嫌な感じの」
「オレも気付いたぜ。 兄ちゃんに言われるまで、よく分かんなかったけど」