第31章 役立たずな言葉と饒舌な体*
「きっとなにか足りなかったんだね。 真弥が望むなら、おれ、一晩中でも言葉をあげるのに。 なにしたって」
びくっ、びくっと収縮を始める私の中を抗うように、律動の振幅がやや大きくなった剛直が往復を続ける。
私の腰から手を離し、ベッドに柔らかく置いて、黒い影を壁に写しながら彼が折り重なった。
「あっ……はぁ…いっ……もうっ」
途切れ途切れに思考が戻る、夢うつつの間に落とされ続ける静かな声。
「なにしたって、真弥の欲しいものをあげるのに」
それから彼が洩らす吐息に被さるように、細かな雨粒がどこか清廉さをまとって降りしきる音が聞こえた。
「だって、ねえ。 おれが誇れるものはそれしかないんだよ………真弥」
ただ深く繋がって、奥底に感じる脈動。
今私が体を通して感じてる心の交歓と、同じようなものを琥牙も思ってるのかもしれない。
触れた彼の額には珍しく汗が滲んでいて、私は不思議に思い薄目を開けた。
以前まで、ともすれば不安定に色彩を変えていた瞳は落ち着いた影を落とし、視線が出会うと、手に取った私の指に、礼儀正しく唇を付けた。
こんな最中にその仕草はアンバランスで、彼じゃなければ気障ったらしいとでも心の中で笑ったのかもしれない。
けれど、それさえも胸が締め付けられて子宮が疼いてしまう。
それに気付いたのか指を繋いだまま彼が私の顔の横に肘をついて、数度、染み入るような口付けをする。
最近になって私は考えていた。
この先出会えるなんて思えないから。
「琥牙……ねえ私、琥牙の子供が欲しいよ」
琥牙しかいないから。
彼の頬に触れながらそう言うと、彼は少し目を見開いてから、私の肩に顔を伏せてありがとう。 と小さく呟く。