第31章 役立たずな言葉と饒舌な体*
一片の疑いもなくそう思っていた私の脳裏の彼に知らない女性の影が重なる。
私の知らない彼に、そんなことも有り得るのだとしたら。
「やっ…やだっ…ッ! だめえっ…わたしのっ!」
そう想像すると耐えられない気持ちになった。
「お願い……やだ、よ。 琥牙しか、いやなの…」
触れるのも触れられるのも、私じゃなきゃいやだ。
それが当たり前みたいに思ってた。
でも、違うの?
こんな私じゃそう思ったら駄目なの?
そうやって形にもならないものを彼の口から言われると、それだけで私の何もかもが壊れそうになった。
私はもう、どうしようもなく、彼が好きなんだ。
短く投げられた言葉にすべて支配されてしまうほど。
嗚咽混じりに嫌だと繰り返す自分は子供みたいで、これまでの消せない過去をぐちゃぐちゃに塗り潰したくなる。
「知ってる。 言い過ぎた。 ごめん、泣かないでよ。 そういうのさえ、いまはもう堪んないんだ。 おれしか知らないなんて思ったら」
「…ごめ………っなさ…」
どうしようもないぐらいに。
それは琥牙もきっと同じで。
彼がここにいることは当たり前なんかじゃない。
私を傷付けて平気なんて人でもない。
………同じ思いをさっき彼にさせたことを後悔した。
いくら知りたいからって、分かりたいからって。
私のしたことは、自分を甘やかして彼を試そうとしただけ。
ごめんね。
嫌な思いをさせてごめんなさい。
そう言い続ける私を彼が抱え直した。
「いいよ。 謝んなくて。 止めるつもりないから」
そんなことを今度は優しい声で囁きながら寝室に向かう。