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オオカミ少年とおねえさん

第31章 役立たずな言葉と饒舌な体*



窓辺の、壁際に座ってクッションにもたれてる琥牙に近付き、その両肩に手を置いた。


「真弥?」


見上げて追ってくる彼の視線を無視し、屈んで耳元に唇を付ける。
灰がかった淡い茶色の髪の先から、乾いた外の匂いが鼻先をくすぐった。


訊いたらどこかに行っちゃう?
泣きそうになったら、出て行く?

またあんなのはやだよ。

彼が私の前で初めて獣化したときの締め付けられるような想いが、私の胸に去来した。


「琥牙」


それとなく、なにか心配ごとない。 とか。

そんな風にさらりと聞ければいいのに。
喉がつっかえたみたいに、言葉が出てこなかった。


「………好きだよ」


好きだから、知りたい思う。
なのにこの先の言葉が見付からない。


「どうしたの? なんか……ちょ」


着てる彼のシャツの中に手を滑り込ませて、その胸に触れる。

なだらかな弾力のある筋肉と、まるで女性みたいに綺麗な肌。
あんな力がどっから湧いてくるんだろうといつも不思議に思う。


「琥牙って、男性の割にあんまりゴツゴツしてないよね」

「なに。 いきなり」


首から肩にかけてと、胸の間の骨の継ぎ目にある窪み。
不審げな彼の声を無視して私が触れ続ける。


「私、鎖骨とか好きだよ。 男の人の。 知ってた?」


以前琥牙とした時に、私の視界にずっとこれがあった。
彼が体を沈めるたびに肩に沿った陰影が濃くなって、そこに額をすり付けてた。
それから普段もしばらく、衣服の隙間から見つけるたびにそんなことを思い出して赤面したり。



「………知らない」


「ふふ……昔そう言ったら、マニアックだって言われたっけ」


誰がとかは言わない。

琥牙にじっと見られてる気配がする。

そこをなぞっていた私の指を軽くつかみ、彼が動きを止めた。


「どうかした? 煽られてるのはなんとなく分かるけど」

「単なる昔話だよ。 琥牙も教えてよ、そういうの」


私、なに言ってるんだろう。 もう一人の自分が呆れてる。



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