第31章 役立たずな言葉と饒舌な体*
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どう切り出せばいいんだろう。
上手な言い方がちっとも思い付かない。
裏庭で二ノ宮くんと別れたあとに、のろのろとマンションの階段をのぼる足どりは牛歩のようで、気が重かった。
話してくれないことになにか理由があるにしても、それが私にとってよくないことだという位は想像がつく。
それに対して、知らないフリをしていたらやり過ごせるんだろうかとか、収まるべきところに収まるのかとか。
………むしろその方がいいのかも?
世の中杞憂なんてことも多々あるしね。
そんな風に考えを巡らし部屋へ戻る。
けれど、床に触れる片手にスマホを持ったまま、またぼうっと夜の闇を眺めてる琥牙を見たら、途端に臆病風が吹き出した。
ただいま。 しばらくドア口で佇んでそう声をかけると、ふと彼がこちらに顔を向ける。
「真弥、お帰り。彼の肩平気だった?」
もの柔らかな視線を寄越してきた彼だったが、琥牙が普段、私に気付かないほど散漫なことなんてない。
「大丈夫だけど二ノ宮くんって脱臼、癖になってるんだって。 今までよっぽど無茶してきたのかな」
去り際の彼の様子を思い出して伝えると、そうだろうね。 琥牙がそんな返答をした。
「知ってたんだ?」
「あそこまで日頃から傷めてると骨格自体が変形するから。 近くでやると服の上からでも気付く」
「………案外、意地悪なところあるんだね」
そうかな、分かりやすく彼の急所教えたつもりだったんだけど。 そう言う琥牙がちょっと考え込む。
そんなに実力差があるなら、わざわざ怪我をさせる必要があったんだろうか。 そんなことを思って、私にしては嫌味めいた言い方。